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Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

「プレミアム戦略 - 遠藤功」

プレミアム戦略 - 遠藤功

 国内における新規サービスのマーケティング・ブランディングを考える上で非常に参考になる本と出会いました。初版はなんと2007年12月と、7年近くも前のものでありながら、シンプルかつ極めて時代整合性の高い示唆に富んでいます。

プレミアム戦略

プレミアム戦略

 日本では長らく、「マスへいかに迎合するか」がマーケティングの全て、という時代が長かった。それは「一億総中流」、「豊かさを均質化し、皆が享受できる状態を作る」という国家戦略と巧みに相互作用し成功してきた。一方で、世界がフラット化する流れのなか、日本国内でも価値観の多様化と再編成が行われ、一律の豊かさを語る時代は終焉しつつ有るように感じられる。
 インターネットの世界では、多様化した個々の「楽しみ」「美しさ(UI)」「便利さ(UX)」といった”豊かさの要素”に答えるべく、日々新しいサービスが生み出される。それらは玉石混交ではあるものの、創業者が身近に感じられるターゲット(顧客)に対してはとことん「プレミアム」であろうとする意志が感じられる。特定の誰かの、特殊なニーズに答えようという気概が、インターネットの世界では比較的多くの人が持ち合わせている。彼らは決して「万人」へ向けたサービス・メッセージを打ち出そうとはしない。もうその戦略では勝てない世界だからだ。
 一方でオフラインの世界、たとえば魚を獲って、さばいて、凍らせ、運んで、売る、というクラシカルなビジネスの世界ではどうか。正直プレミアムという概念は皆無に等しい。多くのプロデューサーは、まだテレビ的な思考で、マスに受ける安価で低〜中品質こそがビジネスの王道だと考えている。本書はそのアンチテーゼである。

では、著者が語るプレミアムとはなにか。

  • その語源はラテン語の形容詞[primus]だと言われている。[primus]とは「第一番目の」(first)とか「最も良い、裁量の」(best)という意味である。ここから派生して、もっともよいものに対して顧客が例外的に支払う「超過価値、割増金」の意味を持つようになった。
  • プレミアムとは、プラスアルファの対価を支払ってでも手に入れたいと思わせる「特別な価値」「プラスアルファの価値」と定義することができる。
  • プレミアムの本質を考える際には、消費者にとっての価値を「機能的価値」(Functional Value)と「情緒的価値」(Emotional Value)の2つの側面から捉える必要がある。
  • (機能的価値とは)衣服であれば、素材や縫製に徹底的にこだわり、圧倒的に着心地がいい。(中略)商品やサービスの本質的な価値において、「レベルの違う上質感」という形として見える独自の上質性
  • (情緒的価値とは)その商品を手にすることによる精神的な満足、オーナーとしての誇り、作り手に対する共感など、消費者の情緒に訴えかけ、作り手との「見えない絆」をつくりだすことができるかどうか

 これらを統合し、下記のようなマトリクスで説明することが出来る。消費者の価値をはかる2軸の両方で、尖ったプロダクトこそプレミアムたりうるのである。

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プレミアムシフトへの鍵とは

 プレミアムと真逆に位置するのがマス発想である。これまで日本企業で支配的価値観だった「マス発想」の否定が第一の鍵となるが、多くの失敗はこのフェーズで起きている(本著では日本国内における「レクサス」のマーケティングが失敗例として扱われている)。
 また、プレミアム戦略には顧客(who)・マーケティング(how)というものは存在しない。代わりにファン(who)とストーリーテリング(how)があるのみである。クラシカルに予算を投じ、広告から引き連れてきた顧客を、プレミアム戦略では徹底して排除する。必要なのは、ブランドの価値観を丸っと共有できる、極めてロイヤリティの高いファンなのである。そして悲しいかな、そんなブランドは1年や2年では醸成されない。
 プレミアムとはブランドであり、文化である。行動の積み重ねと、巻き込んだ人々の共感こそが、情緒的価値を高め、そして厳しくも率直なフィードバックを引き出し、機能的価値を向上させる材料となる。日本でのサクセスケースとしては虎屋、星のやといったケースが取り扱われているが、まさにいずれのブランドも、徹底したファンとの関係構築と研鑽、そして作り手のプロセスを共有してきた姿勢から、プレミアム感を醸成してきた。決して一朝一夕で追いつける高みではない。

 これからプレミアムブランドを創りたい人がまず何をすればよいか。それは「だれの要求に応えたいのかを決めること」「そのために、対象の生の声を真摯に聞き続けること」だと僕は結論する。徹底した(期待)ユーザー・ファンへのインタビューこそが"What should we do 1st"であろう。

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  • 発売日: 2013/04/18
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 機能的価値・情緒的価値、両方の側面で妥協なき上位を目指すGILTのサービス。しかしながらそのマーケティングには「バイラル」と呼ばれる、古典的ながらも最も人間の本質を大事にした「口コミによるマーケティング」が要所を抑えていることがわかる。本書はマーケティングに限らず、GILTというスタートアップがどのように生まれたのかというヒストリーメインで記述されており、例えば映画「Social network」に視るようなStart upの遍歴を垣間見る上でも非常に面白い。The Startup/Umeki Yuhei氏による本書の解説も秀逸。こちらはマーケティングの解説材料としてのアングルで独自のロジックを持ち出しながらの解説は、自著の「グロースハック」にも収録。こちらも良い参考になります。
「GILTループ」に学ぶバイラルマーケティングのノウハウ(図解付き) | The Startup


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 上記のバイラル・マーケティングを進めていく上で抑えるべきポイントは、サービスや商品を「誰」にどうやって買ってもらい、そして満足してもらうように仕向けるかが全てである。買ってくれるのは誰か、みんなに言いふらしてくれるのは誰かを特定していく作業こそバイラル・マーケティングと言える。本書は、豊富なケースを元に、時どきに必要な「誰か」の探し方を示唆してくれる。もちろんケースなのでこれは過去のものであるという見方は否定しないが、Socialもまともに使ったことのない「マーケティング担当」からすると、ケースは自分の血肉になる。「マーケティングの勘所は心理学です」というふざけたアカデミック極論で片付けることのない実務家が読むべきケーススタディである。