Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

編集者から学ぶプロダクト・アウト

ぼくらの仮説が世界をつくる

ぼくらの仮説が世界をつくる

コルクの代表であり、ドラゴン桜や宇宙兄弟などのヒット作を編集者という立場から生み出してきた佐渡島さんの著書。現在は漫画家や小説家のエージェントをを務め、クリエイターである彼らを公の場にパブリッシュする「コルク」を起業・経営している。今では30名超の会社だそうだ。

キュレーションメディアの流行からメディアが乱立して以降、編集という言葉はバズワードになっている感がある一方、実際のところ「何をするんだろう」というのは疑問だったが、この本を通じて理解できたような気がする。

編集者とは

編集との対比に作家という存在がいる。佐渡島さんの経験&見解によると、作家とは「自身の脳みそにもう一つの世界を持ち、そこへトリップしてストーリーを撮影してくる異能な生き物」である。

編集とは、その作家がストーリーをクリップすることに集中できるように、それ以外をやる。すなわち、作品のマネジメント+販売・流通を抑えていくのが編集者であるという。

これは作品というプロダクトに対するプロダクトマネージャーそのものではないか。

本書を読み進めると、佐渡島さんが彼自身が「異能」な編集者であることがわかる。彼の編集業は観察と洞察から来ており、その所作は「プロダクト・アウト」そのものだった。以下では抜粋を通じて気になった要素を汲みとってみたい。

編集者は作家の引き出しを開けプロダクトの質を高める

作家は、「異能の人」です。人口の1%どころではなく、0.1%か、0.01%くらいしか存在しません。一緒に仕事をしていて感じるのは、彼らは物語を作っているのではなく、頭の中にもう一つ別の世界を持っていて、そこへトリップしているのです。 だから、本という形だけだと、作家が創造したものの10%くらいしか使用していないことになります。それを、30%、40%に高めていくのが、これからの時代の編集者の役目だとぼくは考えているのです。

  • 編集の役目はクリエイターのポテンシャルをできるだけ多く引き出すこと。ITで例えるならば「異能な人」とは優秀なプログラマー・デザイナーを指すだろう。
  • 「クリエイターの能力を最大限引き出す」という点において、プロダクトマネージャーと編集者は同じミッションを背負っている。
  • ただし、IT製品においてはプロダクトマネージャー自身が「この製品が解決する問題」を特定し、ワイヤーレベルの仕様を作る必要があるクリエイターでもあったりする。そういう意味では自身がクリエイターポテンシャルを発揮できるようなマネジメントも必要になるのではないだろうか。

データではなく人々の所作から洞察する

決断するためにわざわざ集めた情報の多くは 、 「過去 」のものです 。それに頼ると 、気付けば 「前例主義 」に完全に陥ってしまいます 。前例主義に陥らないためには 「先に 」仮説を立ててみることです 。
---(中略)---
「情報 →仮説 →実行 →検証 」ではなく 「仮説 →情報 →仮説の再構築 →実行 →検証 」という順番で思考することで 、現状に風穴を開けることができるのです 。

  • 仮説を創るときに「過去の数値」を見るクセをできるだけなくすことが肝だ。データと距離をとれ、というのは矛盾に聞こえるかもしれない
  • しかしそこには意図がある。人はデータに触れてしまうと、使わずにいられなくなる。データは過去の実績であるから、データを使うことは前例を追いかけることにほかならない。未来の当たり前を創るという志には到底たどり着けなくなる。

仮説を立てるときは、誰でも得られるような数字のデータではなく、「日常生活の中で、なんとなく集まってくる情報」そして「自分の中にある価値観」の方が大切なのです。
---(中略)---
「女性は何が好きだろう?」「日常どういうふうに行動しているだろう?」「どんな場所で本を手に取るだろう?」「見る映画をどうやって決めているんだろう?」……そんなふうにひたすら考えました。そして「女性がよく行くところで、影響力がある場所はどこだろう?」と考えていたときに、ふと「美容室だ!」と思い浮かんだのです。

  • 宇宙兄弟は「美容師を経由して女性は漫画を知っているのでは」という仮説から、数百の美容院に漫画を提供し、そして女性発で爆発的にヒットしていったという経緯がある。比類ないマーケティングは、美容師の観察と洞察から始まった。
  • 徹底的に人の生活を観察しよう。数値ではない、洞察から仮説をつくろう。

100%予見できる未来を見据える

ぼくの行動原理も 、恐怖から来ているので 、 「 100%わかってること 」しか 、ぼくとしてはやっていないつもりです 。 CDショップや書店をぶらぶらして 、出会いたかった作品と出会うのではなく 、 「SNSを通じて作品と出会うようになる 」というのは 、 100%起きる変化です 。その変化に対応する方法はまだわからないけれど 、変化することはわかっている 。だから 、ぼくの行動は 、 「 100%わかっているほう 」へ懸けているだけなんです 。ぼくの世界の見方はシンプルです 。まずは変わらないもの (本質 )を見つけること 。そして 、日々起きる変化の中で 、何が大局の変化で 、どれが一時的な文化や習慣にすぎないのかを 「宇宙人視点 」で見つけることです 。長期的な変化が何なのか 。それを予測し仮説を立てることです 。今あるすべての習慣は 、技術が変わっていく中での 「過渡的 」なものでしかなく 、 「絶対的 」ではない 。そのことを忘れてはいけません 。

  • プロダクトを創る時は半歩先を見ろというのがポール・グレアムの教えだ。1歩先では早すぎる。タイミングを間違えると、プロダクトはスケールする前に死ぬ。
  • 半歩先を示すものは何か?それこそが彼の言う「100%わかっている未来」なのではないだろうか。100%予見できる仮説が作れたなら、後は実行力の勝負になる。

ECにおける100%わかっている未来

最終的には、時間消費としての買い物のほうが大きくなってくるはずです。 ただ、時間消費はコミュニケーションが鍵になります。今は、ネット上のお店とお客のコミュニケーションは、リアルと比べるとずっと不便です。コミュニケーションの問題が解決されたら、ネット上の売買は爆発的に増えるとぼくは予想しています。

  • 人々の生活においてECはすでに当たり前の存在になった。ただし買い物を分解すると、「物の消費」という側面の他に、買うものを検討する「時間の消費」がある。ECは「物の消費」をサポートしたが「時間の消費」はコミュニケーションによってこれからサポートされていく。
  • つまりECがこれから重点的に解いていく課題は「お客様とのコミュニケーション」なのではないか。その問が解かれた時、佐渡島さんはECの流通額が爆発する方に賭けている。これはECを運営する僕も全く同じ見解だ。

「なんでもいい」に潜む本質

妻に 「なに食べたい ? 」と聞かれ 、夫が 「なんでもいい 」と返事をすると 、妻に嫌な顔をされる 。よくある光景です 。でも 、このシ ーンは 、人間を理解するのにすごく重要なシ ーンだと考えています 。 「なんでもいい 」というのは 、世の中のほとんどの人にとっての 「本音 」でしょう 。 「なんでもいい 」は 「なんとなく 」とも言い換えられます 。ヒット曲を聴いている人は 、 「その曲でないとダメ 」と思っているわけではなく 、 「なにかしら音楽を聴きたい 」と思って 「なんとなく 」音楽を聴いているだけです。

  • 「なんでもいい」「なんとなく」の行間には、誰かからの揺さぶりで意思決定を左右できる余地が大いに含まれることを示していると思う。
  • コミュニケーションは、揺さぶりを創ることじゃないだろうか。Apple Musicやspotifyは、殆どの人が音楽へのこだわりが無いことを見抜き、揺さぶり、個別のアーティストの売上を奪って「なんとなくの行間」を勝ち取った。

想像ではなくどれだけ観察できたか

誰も読んだことがない物語を作る人も、誰も想像できない社会を実現する経営者も、優れているのは「想像力」というよりも「観察力」です。
---(中略) ---
観察力がある人は、努力すれば必ず表現力を身につけることができます。でも、その逆に、いい観察ができない人は、継続していい表現をすることはできません。
---(中略) ---
ぼくらは普段、ちゃんと見ているように思っても、ほとんど何も見えていないのです。あとで「さっき、何があった?」などと聞いてみても、漠然としか記憶していないでしょう。そのことを意識することから、観察は始まります。

  • 我々の意思決定は、我々の考えたことで出来ている。思考はインプットから出来ている。インプットは観察から来ている。
  • 見るという行為が我々にどれだけのアイデアをもたらすか。見直すことで、我々のプロダクトは劇的に変わるのではないだろうか。

プロダクト・アウトを実践するには

最後に個人的に再編集した「佐渡島式プロダクト・アウト」を整理しよう。

  • 人々の生活を観察する。データは見るな
  • 半歩先の未来を予想する。その未来では人々はどんな活動をしているか洞察する
  • その未来が訪れた時に、準備が足りてない箇所を列挙する
  • 優先度を決め、仕様を決め、プロダクトを創っていく
  • クリエイターが作業に入ったら、PMの役割は彼らのポテンシャルを引き延ばすことだ。10%を40%にするための努力をする