Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

創造性は制約の中で生まれる

http://a.fssta.com/content/dam/fsdigital/fscom/NBA/images/2015/10/28/GoldenStateWarriors/102815-NBA-Golden-State-Warriors-Stephen-Curry-PI-SW.vresize.1200.675.high.32.jpg

制約が生んだNBAの怪物ステフィン・カリー

ステフィン・カリーというNBA選手を知っているだろうか?

ゴールデンステート・ウォリアーズに所属し、チームは昨14-15シーズンはプレイオフで優勝。NBAを制覇する原動力となった。 15-16の今シーズンも快調で、2連覇の期待が集まっている。カリーはそのウォリアーズの絶対的エースであり、またNBA史上最高のシューターとの呼び声も高い。

彼の実績を見てみると、

  • 12-13 : シーズン3P成功数のレコードホルダー : 272(12-13シーズンにレイ・アレン269を塗り替える)
  • 14-15 : 驚異的な3P成功率 - 44.3%(30%を超えると優秀なシューター)
  • 14-15 : オールスターゲームの3Pシュートアウトで優勝
  • 14-15 : シーズンMVP

という輝かしい成績を収めてきた。

史上最高のシューターと言われてきたレイ・アレン、レジーミラーというシューターをスタッツ面で抜き、名実ともに世界No.1のシューターである。

彼は一般的なシューターと異なり、非常に独特なシュートフォームで次々と3Pを沈める。ボールを持ってからシュートを打つまでが圧倒的に早い。それは、以下のようにカリーが徹底してリリーススピードを早める工夫を凝らしているからだ。

  • 3Pを打つときに、ほとんど跳ばず
  • ボールをリリースする打点が低い

これはシューターにとってのセオリーから大きく外れたフォームである。

カリーのチームメイトで、同じくNBAを代表するシューターのトンプソン(彼は15-16シーズンのオールスターゲームのシュートアウトで優勝)は教科書的に”美しい”シューターだ。トンプソンはジャンプして最も体幹が安定する地点で、高い打点からボールをリリースする。そのほうがボールがリムを通るまでに必要とする距離が短く、安定するとされているからだ。

15-16のシュートアウト動画でカリーとトンプソンのフォームを比較すると、カリーのフォームがどれだけ独特かよくわかるだろう。カリーはセオリーと真逆のフォームで世界一まで上り詰めたといえる。

www.youtube.com

カリーのフォームはなぜ独特か

  • カリーは191cm/84kgと決してシューター(SG)として恵まれた体格ではない(NBAのSGの平均身長は約200cm)。
  • また、PGとしてはクイックネスやスピードに長けているわけでもない。過去に手術を施した足首は可動域が狭まり、アジリティに影響している。

こういったカリーという選手の仕様から、

  • 1on1でのペネトレイトをベースとしたオフェンスでは他のPGに劣る
  • しかしSGとしてはミスマッチを引き起こす

という弱点 = 制約があった。

カリーは圧倒的にリリースが早いシューティングスキルと、味方からのアシストではなく自らのハンドリングスキルでシュート機会をクリエイトすることで弱点を克服した。その結果、今では彼の弱点に言及する人は誰もいない。PG/SGが持ちうる強みをハイブリットした圧倒的オフェンス力を持つカリーは文字通り手のつけられない怪物となった。

制約の認識

彼が自身の制約を認識し、それまでのキャリアで培ったスキルを捨てて今のフォームに至ったのは高校2年の頃だ。しかし高校時代は周囲を満足させられるスタッツを上げることができず、期待よりもランクの低い大学へ進学せざるを得なかった。

www.youtube.com

しかし大学へ進学し、本格的にフィジカルトレーニングとフォームの洗練を行い、頭角を表した。その後は皆の知るステフィン・カリーである。彼はどんな時でも上半身が安定した状態でシュートが放てるようなコアと、ブロックされずにシュートを放つ機会を創るためのハンドリング突き詰め、今なおそのシューティングスキルに磨きをかけ続けている。

彼の強みの源泉は彼自身に課された制約の認識から始まったといえる。

創造の源泉は制約である

前置きが長くなったが、この記事のテーマは”クリエイティビティはどうやって生まれるか”である。その答えはカリーが示したとおり、制約だと思う。

金もない、人もいない、すぐに結果を求められる、と僕が属するようなスタートアップは常に3重苦に晒されている。しかし、それで良いのだ。何かに苦しめられない限り、我々は創造できない生き物だと認識する必要がある。

名著「イノベーションのジレンマ」において、破壊的イノベーションがリバース・エンジニアリングされた結果、世の中を変える創造(=イノベーション)とは、

  • 小さく
  • 失敗を恐れず
  • 組織から評価されないチームが
  • 投資を受けれないようなフェーズに開発する技術

から生まれることが示され、それは経営学者より経営者から賞賛された。

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 Harvard business school press

逆境は人を成長させるという。だが真に正しい表現は「逆境しか人を成長させない」だと思う。制約を認識し、制約の中ではじめて発揮される創造性に賭けて、今夜もまたプロダクトの仕様を考えるのだ。

(この記事は次のプロダクトを生み出すための苦悩の中で書かれた)