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Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

『言ってはいけない - 橘玲』から読み解く育児のパラダイム・シフト

言ってはいけない―残酷すぎる真実―(新潮新書)

言ってはいけない―残酷すぎる真実―(新潮新書)

資産運用のファンダメンタルを一般人にわかりやすく解説した『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』などの著書があまりに有名な橘玲氏の最新作。

ファイナンス本だけでなく、本著のような一般教養についても手がけていることをはじめて知ったが、やっぱり橘本らしく、「平易な言葉」「ファクト・ベース」で明日から使える知識をもたらしてくれる。以下の目次の一部を見るだけで歯切れの良さがわかる。

  • 進化がもたらす、残酷なレイプは防げるか
  • 男女平等が妨げる「女性の幸福」について
  • 子育てや教育は子どもの成長に関係ない

育児のパラダイム・シフト

この本を読んで、自分の中でカチッと音がし、そして育児についてのパラダイム・シフトが起きた。僕にとっては育児本だったのだ。 多くの人にとって耳障りが悪いが確かなる真実。特に子供を育てるという観点の中で見逃すことのできない本質を列挙しよう。

  1. 日本では耳障りが悪く、不愉快な「進化論」は避けられてきた
  2. 人間を構成する要素は「遺伝」と「環境」で決まるが、その大部分は「遺伝」に依存する。その事実から我々は目を背けたがる。
  3. 知能のちがい(頭の良し悪し)の7~8割は遺伝で決まる。論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%
  4. 精神病もほぼ遺伝で決まる。統合失調症が82%、双極性障害が83%。身体の遺伝率より遥かに高い(身長の遺伝率が66%、体重の遺伝率が74%)
  5. 子どもが親に似ているのは遺伝によるもの。で、子育てによって子どもに影響を及ぼすことはできない
  6. 子は、親のいうことなど聞かない(部分的に聞いてくれる方が不思議である)
  7. 子どもの人格や特徴は、子どもが属する友だちグループの中で「バタフライ効果」を受ける
  8. 子どもの人格への影響度は、学校>>>家庭環境
  9. 白人の集団の中に黒人の集団を混ぜると、黒人の集団は反白人のギャングスターとなる。白人の集団の中に一人の黒人を混ぜると、彼は白人の中でのHEROになる。同調圧力がストーリーを決める。
  10. どんな天才も、友だちがいない環境では知能を活かせず人生を終える
  11. 親の役割は環境を用意すること。環境とは友だちの集団のことだ。

抜粋と一緒に見ていこう。

事実を見つめなおす

  • 日本では耳障りが悪く、不愉快な「進化論」は避けられてきた

私たちの喜びや悲しみ、愛情や憎しみはもちろん、世の中で起きているあらゆる出来事が進化の枠組のなかで理解できるはずだ。このようにして現代の進化論は、コンピュータなどテクノロジーの急速な発達に支えられ、分子遺伝学、脳科学、ゲーム理論、複雑系などの「新しい知」と融合して、人文科学・社会科学を根底から書き換えようとしている。  もちろんこれは私が勝手にいっていることではなく、専門家であれば常識として誰でも知っていることだ。でも日本ではなぜか、こういう当たり前の話を一般読者に向けて説くひとがほとんどいないし、もしいたとしても黙殺されてしまう。なぜなら現代の進化論が、良識を踏みにじり、感情を逆なでする、ものすごく不愉快な学問だからだ

  • 人間を構成する要素は「遺伝」と「環境」で決まるが、その大部分は「遺伝」に依存する。その事実から我々は目を背けたがる。

逆上がりができなかったり、歌が下手だったりするのは、私たちの社会ではどうでもいいことだから、個性のひとつとして容認される。だが成績(知能)は子どもの将来や人格の評価に直結するから、努力によって向上しなければならないのだ。  学校教育では、すべての子どもによい成績を獲得するようがんばることが強制されている。もしも知能が遺伝し「馬鹿な親から馬鹿な子どもが生まれる」のなら、努力は無駄になって「教育」が成立しなくなってしまう。だからこそ、自然科学の研究成果とは無関係に、「(負の)知能は遺伝しない」というイデオロギー(お話)が必要とされるのだ。  

  • 知能のちがい(頭の良し悪し)の7~8割は遺伝で決まる。論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%

一般知能はIQ(知能指数)によって数値化できるから、一卵性双生児と二卵性双生児を比較したり、養子に出された一卵性双生児を追跡することで、その遺伝率をかなり正確に計測できる。こうした学問を行動遺伝学というが、結論だけを先にいうならば、論理的推論能力の遺伝率は68%、一般知能(IQ)の遺伝率は77%だ。これは、知能のちがい(頭の良し悪し)の7~8割は遺伝で説明できることを示している

  • 精神病もほぼ遺伝で決まる。統合失調症が82%、双極性障害が83%。身体の遺伝率より遥かに高い(身長の遺伝率が66%、体重の遺伝率が74%)

夫(もしくは妻)が精神疾患を患っていて、子どもをつくろうかどうか悩んでいる夫婦がワラにもすがる思いでインターネットを検索すると、ほぼ確実に、専門家らしき人物が「精神病は遺伝しない」と断言している文章を見つけることになる。それを読んだ2人は、妊娠をこころから喜ぶことができるかもしれない。  これはたしかにいい話だ。しかし匿名の回答者や善意の医師は、その後の2人の人生に起こる出来事になんの責任も取ろうとはしないだろう。  これも結論だけを先に述べるが、さまざまな研究を総合して推計された統合失調症の遺伝率は双極性障害(躁うつ病)と並んできわめて高く、80%を超えている(統合失調症が82%、双極性障害が83%【2】)。遺伝率80%というのは「8割の子どもが病気にかかる」ということではないが、身長の遺伝率が66%、体重の遺伝率が74%であることを考えれば【3】、どのような数字かある程度イメージできるだろう。背の高い親から長身の子どもが生まれるよりずっと高い確率で、親が統合失調症なら子どもも同じ病気を発症するのだ

子どもの本質

  • 子どもが親に似ているのは遺伝によるもの。で、子育てによって子どもに影響を及ぼすことはできない

進化適応環境では、子どもたちは男女に分かれて年齢のちかいグループをつくり、年上の子どもが年下の子どもの面倒をみることで親の肩代わりをする。思春期を迎えるまでは、この「友だちの世界」が子どもにとってのすべてだ。  このように考えれば、子どもの成長にあたって子育て(家庭)の影響がほとんど見られない理由がわかる。「友だちの世界」で生きるために親の言葉すら忘れてしまうなら、それ以外の家庭での習慣をすべて捨て去ってもなんの不思議もない。  こうしてハリスは、「子どもが親に似ているのは遺伝によるもので、子育てによって子どもに影響を及ぼすことはできない」と主張した。「子育てに意味はないのか」と全米で大論争を巻き起こしたのも当然だ。

  • 子は、親のいうことなど聞かない(部分的に聞いてくれる方が不思議である)

ヒトは社会的な生き物で、群れから排除されてしまえば生きていく術がない。古今東西、どんな社会でも「村八分」は死罪や流刑に次ぐ重罰とされた。これは子どもも同じで、「友だちの世界」から追放されることを極端に恐れる。  勉強だけでなく、遊びでもファッションでも、子ども集団のルールが家庭でのしつけと衝突した場合、子どもが親のいうことをきくことはぜったいにない。どんな親もこのことは苦い経験として知っているだろうが、ハリスによってはじめてその理由が明らかになった。子どもが親に反抗するのは、そうしなければ仲間はずれにされ、「死んで」しまうからなのだ。  親よりも「友だちの世界」のルールを優先することが子どもの本性だとすれば、「子どもはなぜ親のいうことをきかないのか」という疑問にはなんの意味もない。逆に不思議なのは、宗教や味覚のように「親のいうことをきく」ものが残っていることだ

  • 子どもの人格や特徴は、子どもが属する友だちグループの中で「バタフライ効果」を受ける

複雑系では、わずかな初期値のちがいが結果に大きく影響する。「ブラジルで蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻が起こる」のがバタフライ効果だが、人格形成期の遺伝と環境の関係もそのひとつだ。  スポーツが得意でも、友だちグループのなかに自分よりずっと野球の上手い子がいれば、別の競技(サッカーやテニス)が好きになるだろう。たいして歌が上手くなくても、友だちにいつもほめられていれば、歌手を目指すようになるかもしれない。  最初はわずかな遺伝的適性の差しかないとしても、友だち関係のなかでそのちがいが増幅され、ちょっとした偶然で子どもの人生の経路は大きく分かれていくのだ【78】

  • 子どもは自分のキャラ(役割)を子ども集団のなかで選択する。

音楽とはまったく縁のない環境で育った子どもは、なにかのきっかけ(幼稚園にあったオルガンをたまたま弾いたとか)で自分に他人とちがう才能があることに気づく。彼女が子ども集団のなかで自分を目立たせようと思えば、(無意識のうちに)その利点を最大限に活かそうとするだろう。音楽によって彼女はみんなから注目され、その報酬によってますます音楽が好きになる

  • 子どもの人格への影響度は、学校>>>家庭環境

ハリスの集団社会化論によれば、家庭環境よりも子どもの人生に大きな影響を与えるのは学校だ。日本のような均質化した学校制度ではあまり目立たないが、アメリカでは人種のちがいによって、生徒たちの行動や成績に大きな差が生じる。  

  • 白人の集団の中に黒人の集団を混ぜると、黒人の集団は反白人のギャングスターとなる。白人の集団の中に一人の黒人を混ぜると、彼は白人の中でのHEROになる。同調圧力がストーリーを決める。

子どもが友だち集団のなかで自己形成していくのなら、ラリーのように、環境を変えることで性格や行動に劇的な変化が生じても不思議はない。ではなぜ、こうしたプログラムを大規模に実施しないのだろうか。  その理由はもうおわかりだろう。ラリーが「変わった」のは、その高校でたった一人の黒人だったからだ。  もしも複数の黒人生徒がスラム街から転校してくれば、彼らはたちまちグループをつくって白人の生徒たちと敵対しようとするだろう。そのときに彼らが選ぶキャラは、中流階級の白人文化とまったく異なるもの、すなわち〝ギャングスター〟なのだ
===中略===

白人と黒人の生徒が混在する学校に通う黒人の子どもは、「勉強するような奴は仲間じゃない」という強い同調圧力をかけられている。仲間はずれにされたくなければ、意図的によい点数を取らず、ギャングスターの振る舞い方を身につけなければならない。  同様に男女共学の学校に通う女子生徒は、「数学や物理ができる女はかわいくない」という無言の圧力を加えられている。「バカでかわいい女」でなければ友だちグループに加えてもらえないなら、好きな数学の勉強もさっさと止めてしまうだろう。  このように考えれば、親のいちばんの役割は、子どもの持っている才能の芽を摘まないような環境を与えることだとハリスはいう

  • どんな天才も、友だちがいない環境では知能を活かせず人生を終える

英才教育を受けた神童も、幼少期に友だち関係から切り離されたことで自己をうまく形成することができず、大人になると社会に適応できなくなり、せっかくの高い知能を活かすことなく凡庸な人生を終えてしまうのだ

親の役割

  • 親の役割は環境を用意すること。環境とは友だちの集団のことだ。

知的能力を伸ばすなら、よい成績を取ることがいじめの理由にならない学校(友だち集団)を選ぶべきだ。女性の政治家や科学者に女子校出身者が多いのは、共学とちがって、学校内で「バカでかわいい女」を演じる必要がないからだ(必要なら、デートのときだけ男の子の前でその振りをすればいい)。同様に芸術的才能を伸ばしたいなら、風変わりでも笑いものにされたり、仲間はずれにされたりしない環境が必要だろう。  

  • ただし、親は介入できない。人生とはそういうものだ。
  • 「どんな子と付き合う可能性がある(場所)か」
  • 親が用意できる答えはそれのみだ。

だが有名校に子どもを入れたとしても、そこでどのような友だち関係を選び、どのような役割を演じるかに親が介入することはできない。子どもは無意識のうちに、自分の遺伝的な特性を最大限に活かして目立とうとするだろうが、それは多分に偶然に左右されるのだ。  もちろんこれは、「子育ては無意味だ」ということではない。人生とは、もともとそういうものなのだから

不愉快なものにこそ語るべき価値がある

  • さいごに、あとがきから。

ちなみに私は、不愉快なものにこそ語るべき価値があると考えている。きれいごとをいうひとは、いくらでもいるのだから。

僕の中のパラダイム・シフト

  • 子供の人格形成にとって、親との関係こそ最も重要だと信じてきたが、それはどうやら違うようだ。より本質的なのは友だちとの関係だった
  • 親が子供に与えられる環境、それはどんな子が集まる場所に子供を置くか。その1点のみである。
  • どんな子に育てたいか、育って欲しいか。親はひたすらに妄想する。だけど私達がすべきは私達の子供に対する自身の態度を変えることではない。
  • 「こんな子になってほしい」はすなわち、「こんな子と付き合って欲しい」である。子どもの友達が、あなたの子どもを創っている。