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Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

メディアの本質的価値とUIの重要度

プロダクト プロダクト-プロダクトマネージャー

先日「ECやメディアの売上を最大化するためにアプリのUIインタラクションにもっとリソースを割くべきだ(平たく言うと、ハートボタンを押した時にくるくる回せ、等)」という提言を間接的に受けました。面白い命題なので、ECやメディアの売上の本質とは何か?について合わせて考えてみました。

1 / ECはメディアである。

  • インターネットの本質はマッチングであり、情報(コンテンツ)を需要者に対してマッチングするという媒体を提供する。インターネットの起源はメディアである。
  • インターネット上で売買活動を行うメディアはe-commerce(EC)と呼ばれているが、商材というコンテンツを需要者へマッチングする、という点で、ECはメディアの1種である。
  • ちなみにECがメディアとして特質的だな、と感じる点がある。それはコンテンツの消費者とお金を払う人が同一な点だ。そして面白いことに、受け取った代金に対してEC事業者が提供するのは商品そのものではない。「その商品(や、付随する価値)を確かにデリバリーしますよ」という信用である。ECは生まれながらに信用決済の側面を持っており、その規模は広がり続けている。昨今のFintechブームの一端はこのインターネット上における信用決済マーケットのシェア争いという側面が少なからずあるように思う。
  • 日本は実はまだまだ多くのカテゴリーでEC化率の低い国である。以下は少し古いデータだが日本の全小売に占めるEC化率は5%強。最もEC化率が高いUK(15%強)と比較すると1/3程度の規模だ。*1
http://www.emarketer.com/images/chart_gifs/183001-184000/183110.gif
各国の小売市場規模に占めるEC化率。UKがダントツ高い理由の一つに、「天気が悪い」というものが挙げられる

2 / メディアの成長ステップ

メディアには成長段階があり、僕は以下の様なステップ論だと思っている。

  1. コンテンツを集める
  2. ユーザーを集める
  3. マッチングする
  4. マネタイズする

  • すべてのメディアはコンテンツから始まる。商品のないECなど存在しないし、記事のないWebメディアも存在しない。ユーザーを集めるという行為はコンテンツがあって初めて意味を持つ。
  • またコンテンツの質やユーザーの量は3. マッチングが増えるに従ってフィードバックをうけ、良質化していく。例えばECに商品を掲載して、ユーザーを呼びこむ。すると「買った/買われなかった」という結果がもたらされ、その原因を追求することで行動を変化させて成長する。Webメディアであれば、記事を投稿してみて、滞在時間/読了率/ソーシャルシェアなどの結果指標を元に同じようなフィードバックを得るだろう。
  • インターネットの場合はフィードバックを定量化・可視化しやすいという特徴があるため、1~3をぐるぐると回すことでメディアの価値というのは高まっていく。

3 / メディアの価値はマッチングの量と質

  • メディアの本質的価値というのは3.マッチング量(回数)と質(ユーザーの満足度)によって決まる。
  • ただし、この本質的価値と、メディアの収益性というのは実は別軸だと思っている。マッチングが生み出せないメディアに収益は生み出せないだろうが、マッチングが数多く生まれるからといって収益性が高いとは限らない。
  • すべてのテクノロジーは1. コンテンツを集める ~ 4. マネタイズする を最大化するために使用される。
  • 2. ユーザーを集めるノウハウはB2CでもB2Bでも実は大差がないが、1. コンテンツを集めるノウハウやボトルネックはビジネスモデルに大きく左右される。簡単に分けると、ユーザーからコンテンツを収集するのか、それともメディアがコンテンツも収集するのかの2択になる。コンテンツ収集のキードライバーというのはどちらのモデルを選択するかによって大きく異なる。
  • 例えばC2Cのフリマアプリではコンテンツである商材を提供するのはユーザーであるため、どんなユーザーでもコンテンツをアップできるよう、いかに簡略化できるか、そしてその数や質を高めるためにどういったインセンティブを設計していくか、というのがキードライバーになっている。
  • 一方B2CのEC(例えば、NIKEの自社ECを想像してほしい)であればコンテンツ(商材)を保有するのも、ユーザーがアクセスできるように加工・掲載するのは出店者やメディア自身。そのため、ある程度複雑で、専門的なオペレーションでコンテンツの質を追求することも可能だ。一方でその業務効率・オペレーション自体をハックしていくような技術が必要になる。
  • 3. マッチングする量を最大化するためのテクノロジーは、メディア周辺技術の中で最も面白いと思っている。個別のユーザーに対して、適切なコンテンツをタイムリーに提供する技術(世の中的にはレコメンドと呼ばれる)は、以下の様な要素技術から構成される。
    1. ユーザーの属性・趣向を出来るだけ細やかに・正確に特定する(登録情報・アクセスログ等のクロスによるセグメント化等) -1.ユーザーの趣向に最適なコンテンツを、ユーザー毎に抽出する(ユーザーが興味を持ったコンテンツとの関連度をスコア化し、高スコアのコンテンツを抽出するColaborativeFiltering等)
    2. コンテンツの表示タイミング・場所(枠)を最適化する技術(アドテクで用いられるRTB等)
  • これらの要素技術のみでスタートアップがExitできてしまうほどに深い科学知識と実行力が必要となる分野でもある。うまく使いこなすことで得られる恩恵は大きい。
  • ECで最もマッチング技術の研究に大きな投資を行ってきたのはあのAmazonであり、近年レコメンド技術を強みに急成長を遂げているスタートアップはどこかと問われれば僕は「Netflixです」と答える。
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Netflix内の動画視聴全体のうち、75%が「おすすめ動画」から開始されるという
  • 両社とも自社でR&D部隊を抱えるだけではなく、コンテンツの抽出技術(フィルタリング)についてコンテストを開き、新たなアイデアを世界中から集めるなど巨大な投資をし続けている。

4 / マネタイズ手段として何を選ぶか

  • メディアのマネタイズについて、見落とされがちな重要な事実についても補記しておきたい。

3. マッチング4. マネタイズの間には明確な分断がある。」

  • という点だ。数多くのPVを集めたとしてもマネタイズに失敗するWebメディアやDL数を収益へ転換できないアプリビジネスというのは数多くあり、マネタイズはマッチングの延長にはない。
  • ECの特徴はこの3と4の距離が近いことだろうか。ほしい商品に出会うというマッチング体験を演出できれば、ユーザーは喜んで見合った価値を金銭としてバックしてくれる。
  • インターネットメディアにおけるマネタイズの方法というのは実はそこまで多くない。多くは以下の4種類のマネタイズ方法で説明できてしまう。

  1. インフラ代(回線代等)
  2. 広告収益(純広告、リスティング広告等)
  3. EC(売るもの : 商材orコンテンツ, 売り方 : 買い切りor定額課金)
  4. マッチングフィー(マーケットプレイス販売手数料など)

  • スマートフォン等で日常的にインターネットに触れている人であれば、殆どのユーザーが上記すべてを経験しているのではないだろうか。例えば以下の様なユースケースで、1~4のマネタイズポイントをすべて踏んでいることになる。
1. 朝起きてソフトバンクで契約しているiphoneでニュースアプリを立ち上げ、
2. ニュースの合間に目に飛び込んできたバナーをクリック。魅力的なTシャツが並んでいるが、時間がないので閉じる。
3. やはり気になるので週末にサイトを訪問し、じっくり検討した結果、購入。
4. 代わりに、すでに着古したアイテムを幾つかメルカリで出品し、3日後に売買成立。手数料を抜いた売値の90%をゲット。
  • こういった自然なユースケースの中で、ストレスなくマネタイズを行っていくことに成功したメディアだけが成長し続けられる。ECというメディアを曲がりなりにも運営していくと、お金を払ってもらうという行為がいかにハードルが高いか身にしみて理解できる。
  • 最近であれば、写真SNS「Snapeee(スナッピー)」を運営してきたマインドパレット社の事例がある。アジアを中心に1,400万を超えるにユーザーを集め、マッチングに成功したものの、2016/5/31をもって事業停止となった。現在のようなベンチャーバブル以前から億単位の資金調達を経て周囲に期待されてきたサービスであったが、マネタイズが難しかったようだ。

開発費用など先行投資が重く、23年9月期は1192万円の赤字となった。その後も収益性は回復せず、26年9月期は1億7427万円の赤字と急速に悪化。外部からの資金調達も困難となり、ついには支えきれず、今回の事態となった。*2

5 / UIの美しさがもたらす価値

  • さて、本題の「UIインタラクションにもっとリソースを割くべきだ」という主張について考えてみたい。「UI」はサービスにどんな価値をもたらすのだろうか。
  • 「ボタンを触った時の気持ちが良いアニメーション」と言うのは基本的にアプリを使い続けるユーザーにとって”ストレスを感じさせないための施策”となる。すなわち、先に挙げた「4つの成長ステップ」に直接的に大きな寄与をすることはない。
  • 例として、ECにおいて「次のページを見るボタンをおした時のアニメを見たいからアプリを起動する」という目的意識のユーザーは一体どれほどだろうか?
  • 少し古いソースだが、消費者庁のネット通販を利用する理由に関するレポート*3の中に、これらのUIを理由とする回答は見当たらない。「その他」全体でも3.1%であり、ボタンのアニメーションを見るためにアプリを開くというモチベーションは非常に稀ではないかと推察できる。
https://netshop.impress.co.jp/sites/default/files/images/news/2014/news-node274-3.png
ECを使用する最大の理由は「24時間いつでも使える」というところのようだ
  • UIやインタラクションのアニメーションというのは第一印象を作る上で確かに大事だが、実を伴わないことには成長に寄与することはない。いわば「チャラさ」だ。
  • コンテンツを集め、ユーザーを集め、最適なマッチングを生み出し、その数を多くしていくという本筋や技術的投資をおざなりにしてまでチャラさの追求をすることは本質的だとは言えない。
  • すべては優先度がある。メディアにとっては本質的価値である「マッチング最大化」のための技術へ投資がNo.1であり、UIは開発ラインが空いた時、もしくはあらゆる施策の合間や、すべての施策を終えた時に生まれたリソースで着手するくらいで調度良いのではないだろうか。というのが僕の主張である。

6 / まとめ:全ては優先順位

  • メディアの本質的価値とはマッチングであり、また継続性を保つための別軸としてマネタイズができるかどうか、という論点を挙げた。これはどんな業態であれ変わることのない真実だろう。
  • 「優先度」という言葉を使ったが、インターネットサービス/プロダクトを創造する人の数と言うのは、それを使った人数と比較すると0.01%を割り込む水準になることもある。すなわち、「創造の優先度」についての知見はほとんど流通していない。
  • 今回命題として取り上げたUIの件にも言えることだが、「やったほうがいい」ように思えるタスクというのは無限に生まれる。一方で創作活動とはすべてのタスクの優先度を(可能な限り)直列化し、リソースの最適配分によって効果を上げる。故に、すべてのPMやプロデユーサーというのは「やらないことを決め」「やることには順番をつけること」に膨大な思考時間を費やしている。
  • この真実が流通しないかぎり、メディア成長の本質から外れた提言というのは無くならないような気がしている。
  • 仕方がないことかもしれないが、すべての人が創作者になれる時代なのだから、手を動かす経験を誰もが持てると日本におけるインターネット・エコシステムの発展はより加速するだろうな。