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Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

完璧な経営は存在しない - 『論語と算盤と私』

Kindle版がないため久しぶりに紙の本を買い、蛍光ペンを片手に一晩で通読した『論語と算盤と私』。朝倉さんの肉声を聴いたような心地だ(ちなみにNPO時代にマッキンゼーの同僚だったという理由で当時のNPO代表と朝倉さんのトークセッションを開催したことがあり、そのときの声で再生)。

論語と算盤と私―――これからの経営と悔いを残さない個人の生き方について

論語と算盤と私―――これからの経営と悔いを残さない個人の生き方について

  • 経営者のリーダーシップ
  • 成熟企業のターンアラウンド
  • スタートアップの環境
  • ファイナンス・マーケット
  • キャリア観

などの大きなテーマに対し、『赤の女王の走り方』やNewspicksでの連載をグルーピングして再整理した構成の本。 朝倉さんはマッキンゼーからスタートアップ創業、mixi売却、mixiでのCEO就任・見事なターンアラウンド...etcと出色のキャリアを持ちながら、極めて「地に足の着いた」経営論を展開する。会社や事業の舵取りに悩んだ際にはよくブログを読み漁っていた僕としては、この本を手に取らない理由はなかった。

自分に刺さった抜粋を幾つか紹介しよう。

経営者のタイプと「起業家」のジレンマ

人には得手不得手ががあり、それは経営者にとっても同じ。スタートアップであれば、何もないところに旗を立て、ヒト・モノ・カネを集めながら事業を形にしていくわけだが、その過程で創業メンバーがボトルネックとなり成長が滞る例は後を絶たない(というか正直、僕自身がボトルネックになるケースも多々あった)。

創業期「起業家」 、成長期「事業家」 、成熟期「経営者(狭義)」
同じ経営者という呼称であっても、先発登板するのと、途中から救援リリーフすることでは、全く異なるアートです。

例えばGoogleにおけるエリック・シュミット氏、日本であればGunosyにおける木村氏のような、フェーズに応じて適切なタイプの経営者をトップに据えるというのは、他ならぬ創業者の責任かも知れない。この創業者とCEOという役職の間に横たわるジレンマは 起業家はどこで選択を誤るのか――スタートアップが必ず陥る9つのジレンマ においても度々言及されている。

「会社は経営者の器以上に大きくなることはない」という常套句がありますが、創業者個人の成長の限界を、会社の失速につなげてはいけません。

会社が置かれた状況とその人物のパーソナリティの掛け算によって方向性を模索していくべき

停滞期を担う経営者

(停滞期には)斬新な奇策以上に、当たり前のことを当たり前にやりきることこそが、衰退局面の企業においてはより重要なはずです。ベストエフォートを尽くし切った末に結果がついてくるかどうかは誰もわかりませんが、やること自体は存外シンプルです。

直近で言うとGoogleから米Yahoo! CEOへと転身したマリッサ・メイヤーがまさにこの期待をうけてリリーフした。

就任後は「People, Product, Traffic, and Revenue」という極めて全うでシンプルな優先順位をかかげ、ベストエフォートを尽くした。しかし結果は...。ここにターンアラウンドの難しさが見える。

動機は内から沸き立つものであるべき
職業としての経営者の世界に飛び込もうとするのであれば、その動機は内から自然と沸き立つ感情によるものであるべき
雇われ経営者が狡兎死して走狗煮らるの扱いを受けることもあるでしょう。それでも、それが経営者としての責務を全うした結果であり、肝心の会社が良くなったのであれば、まだ納得がいくのではないでしょうか。

特にリリーフ経営ほど自分の気持ちを創り、会社へ注いでいくことの難しさがある。創業者が事業や会社へ思いが強いのは当たり前だ。

だからこそリリーフをする場合には強い動機を自ら作り出す必要がある。その上でやるだけやったらあとは割り切るしかないんだろう。

意思決定のためのコンディションづくり

現実の世界では情報が十分にそろったなかで決断を下すことができる状況というのは、まず持ってありえないことです。また、情報が十分にそろえば機械的に答えを導き出すことができるのかといえば、そんなこともありません。 「自分は考え抜いた末、こちらの道を選んだ。この時点で考えられうる決断をしたのだ。何が起きようと、その結果を自分は背負う」

意思決定。僕も最後は直感だと思う。直感の速度と確度が一番高い。決定にまつわるあれこれを考えてもいい意思決定はできない。

そして振り返るといい意思決定をできるかどうかは「自分のコンディション」による。良い意思決定をできるコンディションを保つことが最大の責務なのだ。

この点についてはグローバル経営を語る id:nori76さんの記事のでも強く言及されている。

コンディションが悪化すると「意思決定」の質が落ちる、ということを彼等がよく理解していることにある。グローバル経営においては、マネジメントすなわち意思決定する人、というのが明確に役割定義されていて、彼等の評価はその意思決定の質と成果によるところが大きい

上記はまっとうな真実である一方、「起業家」には自らもプレイヤーとして状況を打破する力が求められるし、十分にコンディションを整えられない期間は必ずある。

こういったジレンマは仕方ないにしろ、ある程度想定しておくことでよりボラティリティを抑えた意思決定ができるかもしれない。

理想のミッションとは

結論から書くと、理想のミッションとは

  1. 事業と疎結合であり、拡大解釈ができるグレー余白がある
  2. 自社の活動の幅を限定しないフレーズで構成されている

この2つを満たすことではないか。

ミッションとは集団を同じ方向に駆り立てるために用意するものであり、所属するものの気持ちを燃え立たせるキラーフレーズであるべきだと述べました。ところがこうした特性は、ともすれば諸刃の剣になりかねません。
仮に事業内容と高度に密結合したミッションを、継続を志向する企業が掲げたとしましょう。既存事業が成熟期に入った際、事業に紐付いたミッションの求心力が強ければ強いほど、新たな事業への転身が難しくなります。事業にはそれぞれの寿命があることを考えると、こうした求心力は組織の永続性に対する妨げにもなりかねない

感情がしがらみを創る

組織が進むべき方向に齟齬をきたすことがあります。経済的な合理性と同等以上に、組織を支配する空気が優先される様になると、企業はさながら合理性と空気のダブルスタンダードの中での活動を強いられるようになります。こうした状態がさらに進展し、組織に漂う空気がより影響力を持ち出すと、はたから見ればツッコミどころに溢れた、あまりにもナンセンスな意思決定が、大真面目にされるようになるのです。こうした「空気」は一体どこから生じるのでしょうか。山本七平の言を借りるならば、それは「感情移入」です。「感情移入を絶対化して、それを感情移入だと考えない状態」からこそ「空気」は生じるのでしょう。

ビクッとする抜粋だ。

たとえ人数数名のチームでも、感情移入が空気を作り、空気が意思決定を乱す瞬間は多々ある。そしてそれは空気の読み合いをうまくやりはじめる大人のチームでこそよく見られる。と思っている。僕は「空気はあえて読まない」というスタンスを貫き続けたい。

完成を防げ

あるステージで完成させてしまうと、変化が難しくなる。それは事業のオペレーションしかり、企業の文化しかり。完成とは仕組み化という言葉で置き換えても良いかもしれない。

多少のストレスを飲み込みながらも「変化しやすい状態」を保つことこそ、成長の遡上づくりには必要なのかもしれない。未熟は伸びしろだ。

現代の企業組織には、この「逆さ柱」の思想が求められているのではないでしょうか?すなわち、「変革」という御託が取り沙汰される以前から、状態的に組織を揺り動かし「完成」を防ぐことです。

さいごに

上記の他にも、

  • 新規事業では既存事業とのシナジーなど無視しろ、カニバリ上等
  • 文化文化というがそんなに文化が大事か?もう一度考えよう
  • バイアウト狙いのスタートアップ?全然OK

といった(もちろん、よりきれいな言葉で書かれているが)、日本のスタートアップ村ではある種NGとされている主張を自身の言葉で語られている。なんといっても「等身大」がこの本、そして朝倉さんの魅力だろう。

朝倉さんがmixi CEOに就任し、誰もが知るターンアラウンドを成し遂げたのは30歳の時。折しも来年同じ年齢に差し掛かる身としてはこの一年でどれだけ自分をステージアップできるか、チャレンジへと見をつまされる思いを得ました。