Yamotty Blog

プロダクトマネージャーの雑記

マーケットプレイスの作り方

A Guide to MARKETPLACESという、とあるVCがまとめた指針より、僕自身が特に気になったポイントをサマライズした。なお現DeNA Strategic Investment Officeにてパートナーを務める安田氏による日本語訳もあるので気になる方はこちらもどうぞ。

文末にフリマアプリの成功要因の考察や所感を記しています。

A Guide to MARKETPLACESとは?

Version One Venturesでパートナーを務めるBoris WertzAngela Tran Kingyensによって作成された、世界中のマーケットプレイスの概況と成功パターンを抽出し知見をまとめたものだ。

Introductionには以下のように記載されている。

INTRODUCTION
What follows here are some of the insights we’ve learned while observing, funding, and building marketplaces for more than two decades. There’s no single way to build and scale a marketplace, but we hope this handbook provides some insight to help you in your journey. Now let’s get to work.
— Boris and Angela

著者の一人、Boris Wertzのプロフィールを調べてみると以下の通り。起業家・投資家としてマーケットプレイス型のビジネスに精通している。

  • 本のC2Cマーケットプレイスである『AbeBooks』を創業、COOを歴任。Amazonへ売却。
  • その後Version One Venturesを創業、現GM。主にアーリーステージのスタートアップへ投資実行している。
  • 2014年よりa16zでもパートナーを務める。

ちなみに本文献で「マーケットプレイス」と称しているものは、場を運営する主体ではなく第3者がサービスを提供する場を指している。

What sets a marketplace apart from a standard e-commerce site is that the goods and services are supplied by a third party. In most cases, the marketplace platform acts as a type of digital middleman

それではサマリーを見ていこう。

マーケットを選択する際のポイント5+1

2012年にBill Gurleyによって書かれた『All Markets Are Not Created Equal: 10 Factors To Consider When Evaluating Digital Marketplaces』という記事がある。

BorisとAngelaはその中でも特に重要な5つのポイントを強調している。

Bill Gurley of Benchmark Capital wrote the definitive post on which markets are the best fit for marketplaces: “All Markets Are Not Created Equal: 10 Factors To Consider When Evaluating Digital Marketplaces.” While Bill laid out ten factors, we believe five to be the most essential:

1 / 細分化された市場

多くの売り手と買い手が存在する場所を選ぶこと。

It’s much easier to start a marketplace when there are a lot of suppliers and buyers. When there are just a few suppliers, they’ll likely fight the arrival of a new intermediary in their market and won’t want to share in the economics.

2 / 一夫多妻制であること

売り手が固定されず、買い手が”浮気”することでマーケットプレイスを訪れる頻度やその価値が高まる。

In those markets where buyers are fiercely loyal and use the same supplier every time, the value of a marketplace is reduced.

3 / 高頻度

頻度が低いとブランド認知やバイラルが生まれない。頻度は『サービス自体の利用頻度』と『マーケットプレイスの利用頻度』を区別すべき。

When evaluating frequency, it’s important to differentiate between how often a buyer users a service and how often they use the marketplace. For example, you might need a babysitter every day, but you only look for a new babysitter every two years.

4 / 有効市場が大きくなる

良いマーケットプレイスは市場自体を大きくする。現在の市場規模にとらわれてはいけない。

Keep in mind that the best online marketplaces create new value; therefore, the current market size does not necessarily paint an accurate picture of the opportunity.

5 / 決済を抑える

手数料の収集が簡易になる。決済を抑えることでマーケットプレイスのキャッシュフローが良くなり、投資がしやすくなるという大きなメリットがあることも忘れてはいけない。

For sellers, it’s much easier to tolerate fees when they never saw that money in the first place.

上記5つの他に著者のAngelaが2016年8月に公開した『Unlocking new value: adding the sixth factor in our marketplace criteria』の中で6つ目のポイントを追加している。

6 / 市場を拡大できるか

偉大なマーケットプレイスはこれまでになかった新しい取引を生み出す。Airbnbの”自分の家に他人を泊める”、というのは新しい取引の好例だろう。

Good marketplaces connect supply and demand in a more efficient manner, but great marketplaces create new transactions, and add new value to the entire market.

既存のプレイヤーに勝つには

  1. 手数料を安くする
  2. バーティカルを狙う
  3. 10倍早いプロダクト(ユーザーが「ワオ」と思える体験を10倍早く早く提供すること)
  4. 他にない商品、マーチャント

2の『バーティカルを狙う』を掘り下げてみよう。

バーティカルを狙う

日本でも増えつつあるバーティカル・マーケットプレイスについて。大きすぎるマーケットプレイスはバーティカルスタートアップにより解体される。なんでもありのCraigslistを切り出したモデルは2010年(上)から2012年(下)にかけて増え続け、そして多くが生き残っている。

A startup can unbundle a generalized marketplace and focus on creating the best product for a specific vertical. Many marketplaces have struck gold by picking one thing and doing it extremely well.

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ただし1つのカテゴリでうまくいったからといって、カテゴリの拡大がうまくいくとは限らない。AbeBooksは古本のマーケットプレイスから新品の本の領域へ参入しようとした。が、ユーザーはAmazonから動かなかった。

Keep in mind that category expansion doesn’t always work as planned. When Boris was COO at AbeBooks, he thought they could expand the site into new books. Despite a strong selection at competitive prices, the new books category never lived up to expectations and most of the buyers stayed with their existing retailers (mainly Amazon)

成長期にはHot Spotに倍賭け

マーケットプレイスの全ての取引は等価ではないと認識する。

One of the most important things you can do is identify and double down on the things that work in your marketplace.

うまくいっている取引は何か?正しく評価し、それが更に増えるようにダブルベットする。まんべんなく、全てを良くしようという愚直な攻め方は、特に変数の多いマーケットプレイス型事業に向かないということでは、と個人的に理解した。

Airbnbは「画像の良いホストが多くの顧客をひきつけている」という事実を見つけ、CEOチェスキーがカメラを持って無料撮影サービスを行った。

スケールに必要な”信頼と安心”

プロダクトリリースから初めの検証を終え、売り買いの好循環に入ったマーケットプレイスにとって「信頼構築」が重要。端的に悪者を排除し、そして透明性を確保することだ。

Your job as a marketplace is to fight the bad actors proactively, so both buyers and sellers have confidence in the platform. Transparency is one of the most effective ways to establish trust and credibility

Uberでは星3以下のドライバーは排除され、ユーザーは目にすることすらない。

. Uber filters these drivers out, so customers don’t have to sift through driver reviews before getting a ride.

Airbnbは創業3年目には24時間体制のCSチームがあった。

. In response to some specific incidents in 2011 (when host homes were ransacked and robbed), Airbnb created a dedicated Trust and Safety team that’s on call 24 hours a day, as well as a neighborhood hotline where neighbors can report any questions or concerns.

そして、パワーセラーをサポートする

マーケットプレイスでの購入体験はECのそれとさほど変わらない。一方でエネルギーを要するのはSellerの提供体験だ。Sellerが簡単に、素早くモノやサービスを提供できる場であること。Sellerの満足度高いと流通が増え、好循環をもたらす。ヘビーに出品するSellerのストレスを抑えることが鍵の一つだ。

“But for buyers, very little is actually out of the ordinary. Most people are used to buying or even ordering services online, either from Amazon or eBay. On the flipside, fewer people are used to shipping products, providing taxi service, or turning their home over to other occupants. For all these reasons, it’s crucial that marketplaces focus first on devising an elegant, instructive and — above all, easy — experience for suppliers.”

ここからは僕自身の私見。

日本におけるフリマアプリの成功要因

『Fril』が創り出し、『メルカリ』が広げ、そこから家電メインの『ラクマ』、先日終了がアナウンスされた古着特化『ZOZOフリマ』、そして本に特化したモバイル版Abebooksの『ブクマ』が続くなど日本においてフリマアプリは一定の市場を築き、市場の拡大を続けている。

この一定の成功は、"A Guide to MARKETPLACES"に記載されたセオリーと合致するところが多い。

1 / レディース服xスマホという細分化・高頻度な市場から始まった

フリルの創業秘話を、創業者の堀井CEOがブログにまとめている。

結論から言うと「女の子が着なくなった洋服を簡単に売買できるフリマサービス」としてpivotしました。
このプランにpivotしたのはガラケーのブログで、女の子達が自撮りしたコーデなどを売ったり、mixiやtwitterを駆使して服を売っているのに気付いたからです。 この時は本当にガラケー時代の何気ない視点に立ち戻れたのが大きかった。
僕がフリマアプリを創った理由

特に堀井氏がこのマーケットを選んだ背景に、「ガラケーで女性向けアプリケーションを提供してきた経験」を挙げている。適切なマーケットを選ぶことができた、というのがFrilが垂直に立ち上がった要因の一つであるように見える。

2 / バーティカル、そして10倍早い

レディース古着のマーケットプレイスの役割を当時はヤフオク・モバオクが担っていたが。しかし以下のような問題があった。

登録から取引完了までが長くて複雑、スマホの隙間時間に最適化されてない
僕がフリマアプリを創った理由

そこに登場したFrilは、スマホで文字通り10倍早く取引が完了できる場を提供した。Frilはスマホ普及の並に押され強烈に普及。

そのFrilが創ったフリマという有効市場を「オールジャンル x さらに簡単な取引技術」で拡大したのがメルカリだろう。

3 / エスクローが創る”当たり前の信頼”と決済への拡がり

日本のフリマアプリやAirbnbなどのマーケットプレイスでは当たり前のエスクローという決済形態。これは取引が完了するまで運営が売上金を預かり、相互の完了合意をもって売上金を移す仕組みだ。

あまりに”当たり前”として浸透しているため、ユーザーはなんの疑問もなく使っている機能だが、これこそがフリマという場所へ信頼を創る最大の要因だと考えている。

海外へ目を向けてみると、実はこのエスクローが無いばかりに信頼が担保できないサービスというのは驚くほど多い。

  • フィリピンを中心に東南アジアで拡がりを見せる『OLX』
  • シンガポールで独占的に発展する『Carousell』

これらはいずれも手渡しをメインとしたフリマアプリだが、現地でこれらのサービスを使ったことがある友人に「日本のフリマとの最大の違いは?」という問いをぶつけると「エスクローの仕組みがないため、信頼できる人以外と取引がしにくい」という回答を得た。定性的だが、本質でもあると思う。

またフリマアプリはエスクローとして売上を預かることで、大きなキャッシュフローが得られる。そればかりかユーザー間で付け合うレーティングやレビューを元に新たな与信情報を獲得することができ、Borisが指摘する『決済への拡がり』も得やすい。この点を堀井氏も指摘している。

この他にも日本におけるフリマの勃興は"A Guide to MARKETPLACES"に照らして考えると非常に頷けるところが多い。

所感

僕自身が気になったポイントのみを掻い摘んでサマライズしたが、本文にはAirbnbやUberといった近年注目されるマーケットプレイスのみならず、Abebooks、ebay、thumbtackといったより歴史のあるサービスの事例も記載されてあり勉強になった。

マーケットプレイスは取引を司る場所であり、そこ参加する有象無象のユーザーの心理や、行動文化を学び続ける必要がある。サービスのつくり手としてはそれがハードでもあるし、最も楽しい部分でもあると思う*1

「ホットスポットに倍賭け」というのはいい得て妙。ホットスポットを探したり、それに気づけたりするような感度を張り続けられる人には向いているかもしれない。

シェアリングエコノミー

シェアリングエコノミー

*1:僕自身、子供服B2Cマーケットプレイス『smarby』を立ち上げ、そして現在もスタートアップでCtoCマーケットプレイス事業に携わる